永遠ていう言葉も、後悔も痛みも美しく切ない歌に秘めてきた、歌い踊る表現者としての強さ

 きっかけは、「Love Story」だった。多くの人々から「Love Story」が絶大な支持と共感を得たこと。そこから、「今まで歌ってきたバラードの中にも、もっと好きになってもらえる曲があるかもしれない」と安室奈美恵自身が思い始めたことが、キャリア初のバラードベストアルバム『Ballada』誕生の原点だった。

 実際、恋愛より自分自身の人生を選ぶ自立した女性の決意が描かれた「Love Story」は、これまで彼女が歌ってきたバラードの特徴を象徴する1曲だと言える。何しろ「Love Story」の作曲陣に名を連ねているのは、オーストラリア出身の売れっ子サウンド・クリエイター、NERVO(ナーヴォ)の2人。NERVOといえば、デヴィッド・ゲッタのグラミー受賞曲「ラヴ・テイクス・オーバー (feat. ケリー・ローランド)」を手掛け、KE$HAやカイリー・ミノーグら超大物アーティストに作品を提供しているダンスミュージック界の才色兼備。彼女たちが初めて手掛けたバラードが「Love Story」であり、つまりこれは、ダンスミュージックのセオリーから生まれたバラードなのだ。

 その「Love Story」を筆頭に、リスナー投票で選ばれた上位15曲のバラードナンバーが年代順に収録された『Ballada』を改めて振り返ると、その大半がいわゆるバラードという定義だけではくくれない楽曲だということに気づく。大ヒット曲「SWEET 19 BLUES」もテンポこそミドルだが、ビートはあくまでもR&Bを意識したもの。'90年代のUKクラブジャズやソウルの影響を感じる「Dreaming I was dreaming」も、第2期安室サウンドを築いたNao'ymtプロデュースの「White Light」も、いわゆるバラードというよりも、ミディアムスロウなR&Bチューンと呼ぶ方がぴたりとくる。

 歌詞の面でも同じことが言えるだろう。安室奈美恵の歌うバラードはアッパーチューンの時と同じく、愛される喜びを知る度、それにふさわしい自分であろうと心に誓う。何かを失った時は、もう一度立ち上がろうと決意する。典型的なバラードのように、失う悲しさや人生の切なさをただ嘆くのではなく、彼女はいつの時代も女性の強さとその向こうに隠された、もろく切ない部分を、力強くリアルに歌い続けてきたのだ。

 そんな『Ballada』には、ポップで爽快なハウスチューンをバラードに仕上げた「Contrail Ballada Ver.」がボーナストラックとして収録されているだけでなく、「SWEET 19 BLUES」と、「CAN YOU CELEBRATE?」が新たに歌い直されて収録されている。19歳当時のリアルな心情を優しく見守るような「SWEET 19 BLUES」。その柔らかな歌声もさることながら、神々しいほどの美しさに心を掴まれるのが、葉加瀬太郎をフィーチャーしてトラックごとリメイクした「CAN YOU CELEBRATE?」の凛とした歌声だ。幕開けがひと際素晴らしい繊細でドラマティックなバイオリンの響きと、ゴスペル調のコーラス。そして、すべてを乗り越え、”歌う”という原点に再び立ち戻ったようなピュアな歌声が合わさった瞬間の美しさは、今作のハイライトと言ってもいいだろう。

 安室奈美恵だからこそ作り得た、オルタナティヴなバラードの数々を集めたベストアルバムには、『Ballada』というタイトルがつけられている。中世の時代の南仏、プロバンスでは、踊るための歌、いわゆるダンスミュージックのことをバラーダと呼び、それがバラードの語源になったという。まさに、さまざまな視点からダンスミュージックを表現し続けてきた安室奈美恵が歌うバラード集にふさわしいタイトルではないだろうか。
(text●早川加奈子)